日本双生児研究学会第12回学術講演会 一般講演抄録集

1.品胎妊娠中の母体体重変動の検討
横山美江(滋賀医科大学) 清水忠彦(近畿大学医学部) 口分田政彦、木内ゆかり(第1びわこ学園)


妊娠中の母体体重の増加量は妊婦の健康状態、ならびに胎児の正常な発育を管理するための重要な指標である。
単胎妊娠における理想的な母体体重増加量は妊娠の全期間を通じて10.2±3.2kgと報告されている(荒木勤、1981)。
しかし、多胎妊娠中の最適母体体重増加量については未だ明らかではない。
本研究では、品胎出産した母親221名を対象に、品胎妊娠中の母体体重の変動について調査し、以下の知見を得た。
1)全対象者の妊娠週数ごとの平均母体体重増加量は、妊娠20週で4.75±3.08kg、妊娠24週で7.25±6.04kg、妊娠28週で8.97±3.68kg、妊娠32週で10.75±4.21kg、妊娠36週で13.66±5.74kg、妊娠38週で15.50±1.32kgであった。
2)妊娠中毒症非合併群の妊娠28週における平均母体体重増加量は8.10±3.73kgであるのに対し、妊娠中毒症合併群は10.34±3.19kgで、妊娠中毒症合併群の母体体重増加量は有意に高値を示した。
さらに、妊娠期間中に2回以上浮腫が認められた群では妊娠28週の平均母体体重増加量が10.99±3.68kgで、浮腫が認められなかった群に比べ有意(P<0.01)に高値であった。


2.卵性別ふたご死産率の動向,1975〜1994年
今泉洋子(国立社会保障・人口問題研究所) 野中浩一(帝京大・医・衛生公衛)


1975〜1994年の人口動態統計を用いて卵性別ふたご死産率の動向を調べた。
一卵性ふたご死産率は1975年の0.136から1994年の0.081へと2/3まで低下、二卵性ふたごの値は0.065から0.028と半分以下まで低下している。
一卵性ふたごの死産率は二卵性ふたごより1.8〜3.7倍(平均2.3倍)も高い。
性・卵性別ふたご死産率の動向をみると、男子の場合には全年次で一卵性の方が二卵性より高い死産率を示している。
女子の場合も3年次を除けば、男子と同じ傾向がみられる。
一卵性ふたごは全ての母年齢で、二卵性ふたごは母年齢が25〜39歳で死産率は年次とともに有意に減少している。
次に妊娠期間別に卵性別死産率の動向をみると、23週未満の一卵性ふたごと、23〜35週の二卵性ふたご死産率を除けば、全ての妊娠期間別・卵性別死産率は年次とともに有意に減少している。
生存状況と性別組み合わせ別の平均妊娠期間は1975年から1994年の間に有意に短縮している。
2生存ふたごではどの性別組み合わせでも19年間に平均妊娠期間は1週間の短縮、生存と死産の組み合わせふたごでは2(女同士)〜3(男同士)週間の短縮、2死産ふたごでは、女同士は2.5週、男同士は3.2週、男女組は1.5週の短縮がみられた。
出産時体重別ふたご死産率についても報告を行う。


3.双胎児の在胎週数別体重別死産率
野中 浩一(帝京大・医・衛生公衛) 今泉 洋子(国立社会保障・人口問題研究所)

 
双胎出産では、単胎出産よりも妊娠週数が短い傾向があるが、分娩結果が良好な週数は単胎分娩とは異なると考えられる。
今回は、死産率を指標として、最も死産率の低い在胎期間を検討するとともに、それぞれの在胎週数ごとに最も死産率の低い体重について調べた。
1979〜1994年の人口動態統計の出生票と死産票の個票テープから、双生児出産について、妊娠週数別に死産率を求めたところ、全体での死産率は7.61%であり、最低の死産率は妊娠満38週の1.27%だった。
妊娠満38週では胎児の体重が2800-3100kgの区分のときに0.35%と最低であった。
在胎週数が短くなると、全体の死産率は増加するが、それぞれの週数で最低の死産率を示す胎児の体重は、38週よりも軽い方向にシフトしていた。
反対に週数が38週より長くなっても全体の死産率はやや増えるが、最低の死産率を示す体重は必ずしも重い方向にシフトしていなかった。
この結果から38週での出産が最も死産のリスクが低く、それ以前の週数での出産では、胎児の発育に応じた軽めの体重のほうが死産リスクが低いと考えられた。


4.双子の成長発達の経過−低出生体重児を中心にして−
渡辺タミ子、石川操、浅香昭雄(山梨医科大学) 遠藤俊子(山梨県立看護短期大学)

1)目的:Y県における双子の成長発達の経過を把握し、双子の保健指導に役立てる。
2)方法:Y県で昭和63年〜平成6年までに出生した多胎児家庭316件に質問紙を郵送し、母子健康手帳に基づいて回答を得た。有効回答数は双子180組、三つ子10組であった。
3)結果:双子180組のうち217名の低出生体重児の発育・発達について・1000g未満 ・1000g〜1499g・1500g〜1999g・2000g〜2500g未満の4区分に分類し、出生時、3カ月、6カ月、12カ月、18カ月、36カ月の時期における体重・身長を軸に 性別・在胎週数、卵性診断、その他から、また発達について運動、言語機能など20項目から検討を加えたので報告する。


5.双生児(ふたご)の内的世界(2)
小島潤子(東邦大学医療短期大学)

目的 第11回日本双生児研究学会学術講演会において、健康な双生児(中・高校生)を対象にTAT(心理テストで図をみて物語をつくる投影法)を施行(記述式)した結果、図版9GF(下図参照)に双生児に特徴的ではないかと思われる反応が見られたことを報告した。
今回は、双生児反応(図版の二人の女性を双生児と見立てて物語を展開しているもの)、姉妹・友人反応(姉妹・友人と見立てて物語を展開しているもの。一般的な反応とされている)、そっくり反応(そっくりな人物や一方の分身と見立てて物語を展開しているもの。一卵性にのみ見られた)に分類した9GFの物語から、双生児反応の事例をとりあげ、卵性別に、えがかれた物語の内容の違いを、図版上の二人の女性の関係の在り方を中心に具体的に考察したい。
事例1. 二卵性女子 競争的な双生児の物語
事例2. 一卵性女子 結末が未分化・融合的な双生児の物語


6.行動観察による双生児の性格記述における信頼性と妥当性について
安藤寿康(慶應義塾大学文学部)

行動観察による人間の性格特性の記述には、観察者の主観的バイアスが入り込むことが多く、その信頼性と妥当性が問題となる。
とりわけ双生児の性格の類似性と非類似性を比較する場合、この問題は方法論的にきわめて重要である。
本研究では、中学1年から高校1までの18組の双生児が、英語の学習を、ネイティヴ・スピーカーとの「会話・グループ形式」と「筆記・個別形式」の両方の方式を、1日各1時間ずつ3日間にわたって行うという活動に、数人の観察者に参加観察してもらい、双生児の性格の評定をさせた。
評定方法は、25の性格評定項目について4件法で得点化するもの、ならびに行動特性に関する自由記述である。
性格評定項目の因子分析から、新奇性探求、慎重さ、秩序志向の3因子が抽出された。
ここで被験者ごと、日にちごと、学習形式ごとに、各因子得点について、観察評定者内・間の評定の一貫性がどの程度あるか、また因子得点のプロフィールと自由記述との整合性がどの程度あるかを検討する。
そして一卵性双生児と二卵性双生児の類似性を比較する。


7.胎生期から身体・精神発達に顕著な差が見られた一卵性双生児の精神分裂病不一致例
津久江美紀、功刀浩、川手恒太、内海健、南光進一郎、広瀬徹也(帝京大学医学部精神神経科)


症例は、初診時18歳女性で一卵性双生児である。
中学3年生の秋頃より音に敏感になるなどの前駆症状が出現し、高校に入学したものの1年時に中退し、以後自宅に引きこもる生活となった。
その後、注察妄想、被害妄想、幻聴などの精神病症状が次第に顕在化し、18歳時に抑うつ傾向や反復する自傷行為も出現したため、精神科に入院となった。
精神分裂病破瓜型と診断された。
他方の双生児は高校にほとんど休まずに通学して卒業し、現在専門学校に通っており、精神医学的問題が出現したことはない。
両者の発達歴を母子手帳による記録と母親からの情報によって調べたところ、妊娠第38週で出生したが、症例(第1児)は1620g、健常双生児(第2児)は2300gであり、生後3ヶ月の時点でも10%の体重差があるなど、早期の身体発達に顕著な差が見られた。
言語や歩行の開始の時期などには大きな差はなかったが、症例は健常双生児と比較して小学校から中学校までの成績が一貫して低く、性格面でも、症例は内向的であったが、健常双生児は外交的で活発であったという。
本症例は、精神分裂病の病因としての神経発達障害仮説を支持する例であり、特に、胎生期の発達が重要な役割を果たす可能性を示唆する。


8.一卵性双生児分裂病不一致例のゲノムの差異とその意味
岡崎祐士1 辻田高宏12 今村 明1 浜田 旭1 中根允文1 新川詔夫2
(1:長崎大学医学部精神神経科学教室 2:長崎大学医学部原研分子医療部門変異遺伝子解析研究分野)


一卵性双生児はゲノムまで同一であると考えられてきた嫌いがある.
しかし,近年表現型の不一致に対応するtwinning後に生じたと考えられるゲノムの差異が幾つかの疾患や症候群で見出された.
一卵性双生児における分裂病不一致の原因は,「epigenetic puzzle」(Gottesman & Shields, 1982)とされてきた.
我々は,この解答の一つがゲノムの差異にある可能性を想定して,わが国で開発されたdifferential cloning法の一つrestriction landmark genome scanning (RLGS)を,45歳の男子分裂病不一致例(弟が30歳に発症)のgenomic DNAに適用した.
各双生児の8塩基(GCGGCCGC)認識制限酵素NotIによる約2,000個からなるDNA切断点(スポット)が2次元電気泳動により展開された.
得られた2人のRLGSパターンを比較したところ,少なくとも2つのスポットの差異を見出した.
当日は,この知見の意義について報告する予定である.


9.双生児の相互関係に関する研究(4)―双生児と一般児の競争意識について―
天羽幸子(ツインマザースクラブ) 詫摩武俊(東京国際大学)


東京大学教育学部附属中学・高等学校の双生児(64組 MZ50 DZ14) 一般児(347人 男子168人 女子179人)を対象に競争意識についての調査を行なった。
今回は双生児と一般児の競争意識の比較を中心に報告する。
1)競争意識の得点の平均値を比較すると、双生児と一般児との間には、ほとんど差はみられない。
2)双生児は小さい時から競争意識をもつような状態に対して「気にならない」と答えるものが多い。
一般児は競争状態をさけたり、いやだと答えるものが多い。
3)一般児は競争意識を持つ対象として、友達を選び、双生児は相手に向けられることが多く、両者の間に競争意識の質的なちがいも考えられる。
4)中学、高校生自身に競争意識についての心理的動きを述べたり、記述してもらうことが困難なので、同年齢の子どもをもつツインマザースクラブの母親に、競争意識について観察してもらった数例の報告を検討する。
5)双生児、一般児ともに競争意識の強い人の方が成績がよいものが多い傾向がみられる。
6)双生児の対間の成績の差が一方的な優位が続くものと、途中で逆転するものなど、競争意識との関連について検討する。


10.一卵性双生児における口腔顎顔面領域の 'MIRROR IMAGE' (1) 150組にみる第一大臼歯の形態学的検討
菊地 白(帝京大学医学部口腔外科学講座)

対象症例は1984年から1997年の期間に東京大学教育学部附属中学校に入学した150組の同性双生児とした。
口腔顎顔面領域において、乳歯列の後端に萌出する6歳臼歯(第一大臼歯)に始まり第二大臼歯の萌出をもって完了する永久歯列弓が12歳ないし13歳であることが本研究の重要な条件である。
永久歯列弓の形態を決定する第一大臼歯の形態や萌出する位置について検討することは、一卵性双生児の胎生期の歯牙原基の発生過程から乳歯列の代生歯としての永久歯列の完成にいたる顎骨の発育とその顎提に配列される歯列弓の石灰化と完成についての長期の発育過程をも類推しうる貴重な研究課題を包含するものである。
近年の咀嚼・咬合が全身に与える影響についての研究分野の観点からも更に重要な役割を担うと考えられる。
一卵性の双生児間には、口腔顎顔面領域に多くの類似点があるが、特に咀嚼・咬合の中心をなす第一大臼歯の 'MIRROR IMAGE' を検討した。


11.成人双生児における食品摂取及び嗜好性に関する同胞間比較
−The Intrapair Comparison of Diet and Food Preference in Adult Twins−
加藤憲司、早川和生(大阪大学医学部保健学科地域看護学講座)

30歳以上の成人双生児180組(MZ134組、DZ46組)を対象に、食習慣・食嗜好性・よく食べる品目に関する問診調査を実施した。
調査結果は、ペア間の一致率の観測値と期待値を、卵性ごとにχ2検定することにより比較した。
食嗜好・食習慣に関する質問では、MZで22項目中14項目において、一致率の観測値がその期待値より有意に高い値を示した。
一方DZで観測値が期待値を上回ったのは1項目のみであった。
各項目を男女別に比較すると、有意差の出方は性別によって違いが見られた。特に塩分摂取パターンに関して、ペア間の回答が一致しやすい傾向が女性において強く見られた。
また、よく食べる品目に関する質問では、18品目中7品目でMZのみ観測値が期待値を有意に上回ったのに対し、MZ,DZともに有意差が見られたのは2項目であった。
MZのみ有意差が見られたのは、脂肪分を比較的豊富に含む品目であった。


12.新生児期双生児の体重に関する解析
大木秀一、浅香昭雄(山梨医科大学保健学2)

 対象は東大附属中学校に1992年度から1997年度に入学志願した双生児259組(男男123組、女女109組、異性27組)である。
 データソースは母子手帳の新生児期身体発育に関する項目である。これは、入学志願者の保護者に対して実施する医学面接のときに参照するものである。
 早期新生児期は日齢で、それ以降は週齢で解析した。
 体重変化、生理的体重減少、妊娠週数との関係、卵性による類似度などについて解析を試みた。