ふたごの第1子と第2子

−二人の差はいつ縮まるのか−


1.ふたごとは 
 ふたごには1卵性双生児と2卵性双生児がある。1卵性双生児は1個の卵子と1個の精子の受精した受精卵が、本来1個体として発育すべきものが発生の極く初期の卵割で等分に2分し、各々がそれぞれ1個体として発育したものである。1卵性双生児は1卵子1精子性の双生児といえるから、遺伝学的には全く同一の遺伝子組成をもっている。2卵性双生児の方はまず卵子が2個存在すること(多排卵)が必要である。2個の卵子に別々の精子が受精し、2個体として発育する。2卵性双生児は2卵子2精子性の双生児ということができる。遺伝学的には通常の兄弟姉妹程度の違いがある。ただし子宮内生活を共にするという点が兄弟姉妹と異なる。

2.双生児研究法の原理 
 例えばある病気について、1卵性双生児と2卵性双生児の一致率(双生児のふたりとも病気である組数を一方しか病気でない組数+ふたりとも病気である組数で割った値)を比較した時、前者の方が相当に大であればその病気は専ら遺伝によると解釈できる。また、一致率に差がない場合、その病気は環境要因に規定されているということになる。
 さらに、1卵性双生児のふたりの間に僅かの違いでもあればそれは環境要因によるから、その環境要因を分析すれば特異的要因を同定できる可能性がある。例えば、片方が高血圧で残りの片方が正常であった場合、ふたりの生活史に差があれば(食塩の摂取量など)高血圧をもたらした要因を同定でき、原因、治療さらに予防の対策をたてる事ができる。

3.第1子と第2子の比較 
 ここでは、通常の双生児研究法に従わないで第1子(1番目に産まれた子)と第2子(2番目に産まれた子)の比較を試みたいと思う。一般に、第2子の方が第1子に比べて出産時に障害を受けやすく種々の生物学的ハンディキャップを受けやすいといわれている。出産時障害としては仮死、チアノーゼ、重症黄疸、骨盤位分娩などがあげられる。そこで、第1子と第2子のその後の身長、体重、入試成績、学業成績などを比較して、出産時の影響が残っているかどうかに焦点を合わせて検討することにした。
 資料は1981年から1988年にかけて東京大学附属中学校を入学志願した双生児461組である。表1は、ふたごにみられた出産時障害を示したものである。本資料は第1子、第2子の出産時障害の無し有りの組合せで示してあるが、第1子、第2子単独で比較しても第1子197/424、第2子257/424で明らかに第2子の出産時障害が多い。
 比較する項目としては、出生時、1歳時、12歳時の身長、体重、入学試験(T、U)、入学直後に行われる標準学力テスト(国語、社会、理科、数学)が得られている。各項目に男女差のみられたものがあったので、男子、女子別々に標準化(平均0、標準偏差1)した後データをプールした。

 表2は第1子と第2子の差〔第1子−第2子〕の値を各項目毎に表わしたものである。総和をみてみると、出生時の体重が一番大きい。しかし、1歳時、12歳時と年齢が増加するにつれてだんだんとその値は小さくなっている。すなわち、第1子と第2子の差はだんだん無くなっていくことが示されている。各年齢時とも身長は体重より差が小さいが、継時的傾向は体重と同じである。12歳時の入学試験T(主として数学)と国語は負の大きい値を示している。これは第2子の方が第1子より得点が高いということである。以上のことから、出生時に差の大きかった体重、身長なでは年齢が増えるに従って差が小さくなること、学力などはむしろ逆転しているものがみられること、などが分った。

 今度は逆に12歳時で知的能力について顕著な差(2標準偏差以上)のあるペアについて、第1子と第2子を比較してみた。第1子が優位(第1子>第2子)である組数と第2子が優位(第1子<第2子)である組数を示したのが表3である。表3にみられる通り、それぞれの項目において第2子が優位である組数の方が多いのに気付く。すなわち、出産時のハンディキャップの高い第2子の方が知的能力に関しても十分に挽回可能であることを示唆しているといえよう。

 終りに、同じ資料を用いて双生児研究法により得られた結果の一部を示しておこう。表4は体格についてのペア間の差をみたものである。ここで用いた対差(ついさ)はペア間の差の絶対値である。この値が小さい程ペアーはよく似ていることを表わす。ランダムペアは互に血縁関係のないペア、他人どうしのペアを表わしたものである。各項目において1卵性双生児の対差は2卵性双生児のそれより小さくいずれも遺伝要因が強く働いていることを示している。ランダムペアのそれらはほとんど1(標準偏差)以上であり、血縁関係のないペアは全く似ていないといえる。いずれの年齢でも身長の対差の方が体重より小さく、身長の方がより遺伝的規定が強いことが知れる。また、1卵性双生児において、出生時よりも1歳時あるいは12歳時の方が対差の小さいことが分る。年齢の長ずるに従い、遺伝規定が強くなることも興味深いといえよう。

4.結び  
 双生児の第1子と第2子について体格や知的能力を比較した結果、出生時障害の多い第2子が第1子に決して劣っていないこと、十分に挽回可能であることが示された。このことは、双生児に限らず一般の単胎児にもあてはまることが予想される。出産時に何らかの障害があっても、周産期医学の進歩やその後のケアによって十分に挽回可能であると一般化してよいと思われる。
 本稿は山梨県小児保健協会平成2年度定期総会における講演をもとに纏めたものである。