メディア掲載







陶芸体験


2005年8月

この夏
カメラマンの西尾さんと 河口湖へ取材にいらした野田さんの
「混ぜておぼえるはじめての釉薬づくり」
"Mix and Learn to Make Glazes"(誠文堂新光社) が出版されました。

「私の釉薬づくり」(P.92--95)


渡辺和枝さん「出会った天然材料を作品にしたい」
渡辺さんは、山土や暖炉の灰、貝の灰など、天然原料の素材感を生かした作品づくり のために、釉薬や粘土の研究、テストを繰り返しています。 その作風から、一見、感覚的でおおらかな作陶を想像しますが、そのテストは、綿密 で理論的なものです。これまでに扱った原料や、テストデータは体系的にきっちりと 整理されています。 河口湖近くの別荘地に、渡辺さんの主宰する「K's工房」を訪ねました。
陶芸教室から河口湖の自宅陶房へ
渡辺さんが作陶を始めたのは、以前住んでいた京都で通いはじめた陶芸教室でした。 もともとものづくりが大好きだった渡辺さんは、陶芸の魅力にはまり、自分でいろい ろと工夫しながら精力的に作品づくりをするようになりました。さらに、自身の工房 「K's工房」開いて、作品づくりに没頭します。 大学で社会学を教えているパートナーが、東京の大学に移るのをきっかけに現在の河口湖 に移り住みました。湖畔の別荘地に建つログハウスの母屋の裏に専用の陶房をつくり、 現在にいたっています。 緑に囲まれた自分専用の陶房は、誰もがあこがれるような理想の空間です。工房の奥 にシャトル式の大きな灯油窯があり、両脇の棚には、これまでにテストをしてきた釉 薬と粘土がびっしりと詰まっています。
自然釉との出会いは七輪陶芸
渡辺さんは、天然材料のもつ魅力にはまっています。そのきっかけは、「七輪陶芸」 でした。綺麗な自然釉と窯変が現れた作品をみて、原土や天然灰が本来持っている表 現力に感動したのです。 自宅の暖炉の灰や、電気窯で「サヤ還元」(注)をするときに出来る貝の灰を調合し たビードロ釉。これと、いろいろな場所で採取してきた原土との組み合わせが、素朴 で力強い作風を生んでいます。
山土を生かす作品づくり
渡辺さんが、釉薬以上にはまっているのが、原土探しです。良い原土を求めて旅に出 るほど、原土に目がありません。 山から掘ってきた原土が、そのまま陶芸の粘土に使えることはまれです。山土は、焼 いてみないことには、どういう土なのかわかりません。掘ってきた粘土を精製しすぎ ないように、木節粘土や蛙目と混ぜて調整していきます。
データの整理術
精製された原料を扱うときより、未知の天然原料を扱うときの方が、テストデータの 記録は重要になります。渡辺さんの陶房には、無数のテストピースと原料があり、そ れらは、内容がわかるように記録、整理されています。野趣で大らかな作風も、計画 的なテストの繰り返しによって生まれたものなのです。 さらに、原土は、透明のチューブに入れて綺麗にディスプレーしてあります。なかな か真似の出来ない見事な整理術に驚かされます。
釉薬づくりの魅力と難しさ
天然原料を中心とした粘土や釉薬を使うと、原料の不安定さから「再現」に苦労しま す。再び、気に入った焼き上がりと同じようにつくるのは大変難しいことです。 渡辺さんが今とても気に入っているという作品を見せてもらいました。掘ってきた荒々 しい粘土の素地に、ビードロ釉の流れる様子が調和した、窯変の綺麗なお皿です。こ んな、天然原料が魅せてくれる一期一会の醍醐味を楽しみながら、再現性のある作陶 のためにデータを蓄積していく渡辺さんの作陶スタイルは、とても贅沢なことなのか もしれません。
(写真94-1) 渡辺さんが今、一番気に入っている作品。 素地は、秋田県で採取してきた原土に白木節粘土を混ぜて調整。釉薬は、自宅暖炉の 木灰ビードロ釉と貝灰のビードロ釉を掛け合わせてある。焼成は、電気窯によるサヤ 詰め還元(サヤの中に籾殻や貝殻と一緒に作品を入れて焼成)
(写真94-2) 自然釉にはまるきっかけになった七輪陶芸の作品。燃料の木炭や薪の灰が作品に掛か り、素地中の珪酸分と化合して釉薬になった。灰や素地に含まれる鉄分などの影響で 美しい窯変を魅せている
(写真94-3) 原土の異なる3種類の素地に、自宅暖炉の木灰ビードロ釉と貝灰のビードロ釉を掛け 合わせている。原土は、岐阜県や長崎県などから採取してきたもの。同じように釉掛 けをしても、粘土の個性で様々な表情を見せる
右上:静岡県で採取した原土の調整テスト。右は、耐火度が足りなく、崩れてしまっ たテストピース。左は、白木節粘土や蛙目土を混ぜて調整したテストピース
左上:新潟県で採取してきた原土と、それに白荒土を混ぜて調整した粘土でつくった 板皿。粘土が調合してある釉薬は、アルミナ分が多く、マット感が強くなっている
左下:サヤ還元用のサヤとそれで焼成した作品。(注:サヤの中には、窯変が起こる ように木炭の他に貝などを入れて、作品と共に焼成する。このときに出来る貝の灰は、 石灰分が多く含まれているので、木の灰と同じくアルカリ類の原料として使える)
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乳鉢で摺った貝の灰とそれでつくったビードロ釉。見込み中心部に、少し青味がかった透 明感のある釉溜まりが出来ている。粘土は、秋田県で採取した原土に白木節を混ぜ て調整したもの
上:陶房の窓の外には深い緑が広がる。窓際の棚に飾ってある作品は、販売もしてい る。
下:陶房内。中央にある机は、ぶ厚い天板で出来ている。奥にはシャトル式の大型灯 油窯が設置されている。他に100Vの小型電気窯もあり、これでテストピースの焼成や サヤ鉢による還元を行うことが多い




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