メディア掲載







2006年6月
「富士エコロ人」7号





「エコロ人訪問」(P.12)
自然には無駄なものはなにひとつない
クレイアーティスト 渡辺和枝さん


渡辺さんの使用する粘土には、洗練された粘土と違って、多くの不純物が含まれています。しかし、土の中に含まれている多様な鉱物たちが炎によって変化し〈土の素顔〉を出すのだといいます。  富士北ろくの森を歩くと、足元からかすかな土の匂いがし、もう春の訪れがそこまで来ているのを感じさせます。クレイアーティスト渡辺和枝さんの陶工房「K's」は、そんな河口湖畔の森にありました。 「私は、モノが打ち捨てられているのを見ると、モノの寂しさというか、いとおしく放っておけないタチなんです。だから拾い集めて来てしまうんです」 陶芸の窯が据え付けられている工房の棚や壁には、陶器やオブジェとともに、出掛けて行った土地の土で焼成された「テストピース」が並んでいます。 「これ何か分かります?」と、渡辺さんが指差した壁の隅には、バナナ型をした物体が木片に埋め込まれていました。それは畑の畦道に捨てられ、風雨に晒されて錆びついた鎌の歯の部分でした。

■土の素顔  渡辺さんが河口湖畔に窯を構えたのは二〇〇〇年。それから本格的にクレイアートの追求に入りました。 「まだ窯がなかったとき、ともかく土で何かを作りたくて、庭で火を燃やして、この近所の土を使って素焼きの器を作ったんです。それを七輪に入れてドライヤーの風で温度を上げ、裏の林の杉や松などの枯れ枝を放り込んだんです。そしたら、その灰と土が溶け合って釉薬になり、素焼きの表面が美しく輝き出したんです。素朴で単純な作業でしたが、私にとっては驚きとともに感動でした。これって、おそらく縄文人が素焼きを発見したり、釉薬を見つけ出した先人たちの驚きと同じだったのではないでしょうか」 それは陶の原点であり、渡辺さんにとっても制作の原点になった体験に違いありません。その後、渡辺さんはあらゆる鉱物の資料館を尋ねて歩いたり、土を求めて全国を駆け回り、各地の土のテストピースを作り始めます。これらの粘土には、洗練された粘土と違って、多くの不純物が含まれています。しかし、土の中に含まれている多様な鉱物たちが炎によって変化し〈土の素顔〉を出すのだといいます。

■地球の息づかい 「釉薬となる灰にしても、この森の樹木や湖水の貝殻など、次々に新しいものを試しています。それらは炎を媒介として土と出会い、さまざまな表情を現してくれるのがおもしろいんです。また、炉の温度と溶岩の温度は同じくらいですから、土が温度によって変化するのを見ると、地球の息づかいを感じるときがあります」 土を自らのイメージの中に引き込むのではなく、自らを土へ近づけ、土という物質の生生流転の営みに立ち会う―――。渡辺さんはそんな制作態度をとっているのだと思います。 こうして作られた作品には、洗練された土で作った陶器と違ったテクスチュアがあり、野生の声とでもいった、自然の営みの奥深さが秘められた美しさが感じられます。 帰り際、渡辺さんはもう一度「自然の中には、無駄なものはなにひとつないんです」と言いました。そして、壁に掛かったオブジェの中の古びた鎌が、何かを語りかけたような気がしました。  
 K's 工房= http://www.eps4.comlink.ne.jp/~kzkobo/




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