葡萄栽培の質問と回答                   戻る

 千葉県館山市と石和町は姉妹都市です。その関係で那古小学校の6年生の皆様が石和町に修学旅行に来て、町内を班編制で見学します。当園には「葡萄作りについて」9班、10班、12班の方がいらっしゃいます。その前段として質問事項が送られてきましたので紹介します。


平成19年度質問事項返答
                                                   平成19年9月28日

館山市立 那古小学校 修学旅行団
9班・10班・12班の皆様
                                            〒 406−0023
                                            山梨県笛吹市石和町八田397
                                            世界の葡萄   豊   玉   園
                                            園 主 三  浦  光  宏

                    質問事項の返答について

 訪問時の質問事項が送付されてきましたが、スケジュール上、訪問時間が少なく、質問のやり取りをしていると時間が無くなってしまいます。
 来園されたら、出来るだけ園内で、現場でしかできない体験学習をしていただきたいと思いますので、事前に質問事項に対する返答を送付いたします。お目通しを願います。
 質問事項作成については当園のHP等をご覧になり、事前学習をされ、昨年とダブった質問も少なく、質問事項を絞り込むのが大変だったのではないでしょうか。
思い出深い、意義有る楽しい現場での学習をと思っておりますので、健康に留意され、全員元気で来園されることを希望しております。
現場では、気がついたことは何でも質問してください。
 それでは、皆さんが来園されることを楽しみにしております。
 最後に、修学旅行を計画され、準備を進め、ご指導いただいております先生方に、皆さんとともに感謝の意をお伝えしたいと思います。ありがとうございます。

追伸
今年は皆さん方の他に、つくば果樹研究所の研修生、韓国から農業視察団が見えられました。台湾や中国、香港、フランスやアメリカの皆さんは観光客として桃狩りや葡萄狩りに来ました。観光農業を通じて、これからの日本・次世代を担う那古小学校の皆様や外国の皆さんと触れあい、民間人として国際親善の一端を担い、心の交流が出来ますことを何より嬉しく思っております。今後はますます国際社会化します。目を日本から海外まで広げられ、たくましい日本人に成長されることを願っております。


那古小学校 館山市立 修学旅行団 
葡萄栽培に関する質問

9班 班長 松永小代依 様

質問1,葡萄園を開こうとした理由

豊玉園を開いたのは父です。当家は戦前、「豊蚕館蚕種製造所」という養蚕農家へ蚕の種を製造販売する業種でした。戦争で焼け出され、薬草であるウイキョウの栽培や、戦後は糖分が不足していたため、サトウキビを栽培し、絞り汁を大きな鍋で煮染めて、蜜を製造しておりましたが、その後、米作と共に梨やリンゴの栽培をしました。果樹栽培は殺虫剤を使用するため、次第に養蚕と競合して、養蚕農家は減少し、果樹栽培農家が増えてきました。始めに栽培した葡萄は<デラウエアー種>です。以後、時代の要請から大房系である<甲州種>や高級葡萄である<甲斐路>さらに、新品種の導入を図り現在では25種類以上の栽培をしております。
私の生まれたのは終戦直前の昭和20年4月15日です。(終戦は昭和20年8月15日)

質問2、三浦さんがおすすめのぶどうは何ですか。

最近の流行として
1,皮をむかず皮のまま食べられること
2,種がないこと(シードレス)
3,大粒であること
4,珍しい形をしていること
5,食感がよいこと
6,美しいこと
7,最後に美味しいこと
等多くのことが求められるようになりました。(最近の日本人はめんどくさい事は嫌い。ぶどうの食べ方も変わってきた。)人は1人1人に個性があります。ぶどうもまた同じです。わたしのHPに<果実の食べ頃>というページがあります。常連のお客様はそこを見て、食べたいぶどうをタイムリーにゲッドしに参ります。 そのようなお客様が付いているぶどうとしては、巨峰、ピオーネ、マスカットビオレ、フジミノリ、ゴールドフィンガー、アキクイーン、チェリー、カッタクルガン、ゴルビー、紅ピッテロ、ネヘレスコール、バラディ、レッドグローブ、甲斐路等があります。おすすめは、色々食べてみて、自分の好きなぶどうを旬(一番美味しい時期)に召し上がることです。


質問3,育てるのにいちばん大変なぶどうの種類は何ですか。
 
 豊玉園栽培のぶどうは、みんなそれぞれ個性があり、美味しいのですが、皮の薄い皮ごと食べられる品種は、雨や病気に弱く栽培や管理に苦心します。
種類としては ゴールドフィンガー、カッタクルガン、紅ピッテロ、サバルカンスキー等です。また、甲斐路は収穫が9月から10月ですから栽培期間も長く、雨や、病気にも弱いため栽培管理が難しいです。

質問4,ぶどうは市場に出荷しているんですか。

一切出荷していません。当園生産のぶどうは、来園のお客様の胃袋に入ったり、お土産、宅急便等ですべて販売してしまいます。ちなみに、当園のお客様はHPをみて来園するお客様が70%、あとは、旅館からのお客様や<るるぶ>等の出版物を見てくるお客様、石和温泉駅の案内所紹介のお客様や固定客です。石和温泉郷は旅館が多いこと、JRの駅から近いこと、中央道等交通の便が良いこと等、条件的に恵まれていると思います。あとは、他の葡萄園にない特色を作り、宣伝することが大切ですね。

質問5,ワイン用に作っているぶどうは何ですか。

当園は観光葡萄園です。ワイン用の葡萄を作る生産農家ではありません。でも、巨峰(赤ワイン)や甲斐路(白ワイン)等からもワインは作られます。
ワインはワインメーカーや醸造組合等、税務署や保健所から許可が得られた組織のみで作られます。

質問6,ぶどうの木は、何本あるんですか。

成木は、ぶどうの畑、1ha(3000坪)に約50本、養成中のぶどうが15本くらいです。


那古小学校 館山市立 修学旅行団 

葡萄栽培に関する質問

10班 班長 鈴木健太 様

質問1,ブドウ作りで嬉しかったときはいつですか。

2つあります。
ひとつは、ぶどう園に来たお客様から、「美味しかったです。ごちそうさまでした。」「ありがとうございました。」と、あいさつを交わすときです
そのようなお客様がリピーターになって新たなお客様を連れて再来園してくださいます。当園は常連さんも多いですよ。3年来園したら常連としてお迎えします。来園するお客様は多いですが、会話を交わし特徴を覚えお顔を忘れないことも商売のコツです。
もう一つは農業技術的なことです。難しい技術を克服して成果が出たとき、それに、新品種の栽培に成功して初めて実ったときなどです。

質問2,ぶどうづくりで大変なことは何ですか。

ぶどうばかりでなく、農業は自然を相手にする職業です。(露地栽培:施設栽培)製造工場のように環境を人間がコントロールできる業種ではありません。異常気象で毎年気候が異なります。データーを蓄積していますが、そのデーターを見ながら、今年の気候を見定め農業技術を応用しなければなりません。雨が多いときには多いなりに、少ないときには少ないなりに、気温、湿度、降水量、それに伴うブドウの生育状況、これをリアルタイムで判断し、実行しなければなりません。毎日、設置してある温度計で気温や湿度を一日何回も確認し、ウエッブで、日本の天候の推移、山梨県、笛吹市、自宅の真上の天候、雲の様子、週間天気予報等を確認しながら適時に必要な農作業をして生育管理をします。ぶどうの木に葉っぱがない冬でも花芽は分化しているのですから1年中目は離せません。

質問3,豊玉園で一番おいしいブドウは何ですか。

人間にはそれぞれ好みがあります。ブドウにもそれぞれ個性があり、収穫できる時期(旬:しゅん)も異なります。従って、その個性を味わい分けながら、いただくことが美味しいブドウの召し上がり方です。 色々食べ比べて、自分好みなぶどうを食べることが幸せです。
ブドウは色別に見ると、黒、紫、緑、赤、黄色に大別することができます。
それから、種の有無、形、皮ごと食べられるかどうか、味、香り、すべて異なります。 ブドウの個性をそれぞれ楽しむ。一番美味しい食べ方です。豊玉園の栽培のブドウはどのブドウもおすすめできる個性あるブドウです。

質問4,ブドウ作りは何が大切ですか。

ブドウ作りばかりとは限りません。どんな職業も専門的知識と、絶えずえず研究心を持ち、気を抜かないで努力を積み重ねることです。そして、ぶどうの樹と毎日何回も会話(観察)をして、ブドウの樹の少しの変化にも気がついて、異変があったら素早く対応することではないでしょうか。新しい農業技術の学習や研究機関との連携、それに、省力化対策、人間の趣向の変化対策(ぶどうにも流行の変化がある。)また、観光園経営にはマーケティングやHPの作成等、色々な総合力が必要です。でも、一番大切なことはぶどう作りが好きで、その仕事を何よりも愛するという気持ちを持ち続ける事かも知れません。

質問5,ブドウ作りでうまく作る秘訣は何ですか。

秘訣はありません。観光園経営は生産物を自らが生産し販売する自営業です。なまけても、頑張っても結果はみんな自分に返ってきます。失敗しても怒られる人はいませんが、成功しても褒めてくれる人はいません。秘訣と言ったら、うまいブドウを作るんだという頑固さと、自分に負けないことですかね。 誰だって、楽をしてもうければ最高ですが、そんなことは長続きしないし、そんな甘い世の中ではありませんものね。また、農業は同じ事の繰り返しではありません。毎年条件が違うのですから、毎年どう対応するか、総合力を発揮して、適時に的確な農業技術を駆使することです。

質問6,新しい品種を作るのにはどうするんですか。

昔は農家でも研究家がいて新しい品種を作りました。枝変わりと言って同じ巨峰の樹 でも特定の枝だけ早く収穫できたり、糖度が高かったり、粒が大きかったりすることが あります。そおいう枝から何本も接ぎ木を作り、実をならし次第に選抜し固定します。 品種は途中で変化して良かったり悪かったりしてはだめですから、安定するまでそれを 続けます。一つの品種を固定するのには7〜8年もかかります。成功するとは限りませ ん。 もう一つに交配法(品種と品種を掛け合わせる)もちろん、父と母になる品種が必要 です。花の雌しべに雄しべの花粉を着け、その種をまいて育てます。実生(みしょう)と言いますが 今では実生ばかりでなく、ハイテク、バイテクで、植物の核を使った育成や遺伝子操作による育種も一部行われています。ウイルスフリー苗の生産も行われています。いずれにしても、長い年月と技術、経費がかかりますので、枝変わり等の発見は農家でも行われていますが、新品種の育成は公な研究期間(農業試験場・果樹試験場)で行われています。山梨ではフルーツ公園の下に県果樹試験場があり、桃の新品種、夢しずく、すももではサマーエンジェル、サマールージュ等が近年発表されました。
長野県果樹試験場では巨峰とロザリオビアンコの交配により、<長野パープル>という(皮ごと食べられる種なし巨峰>的ぶどうを作りました。種なしにはジベレリンという植物栄養成長ホルモン処理を行います、

那古小学校 館山市立 修学旅行団 
葡萄栽培に関する質問

12班 班長 大野 可葉 様

質問1,ぶどうの時期でないときはどういう仕事をしているのですか。

質問の意味は、ぶどうの収穫の時期以外は何をしているのですか。と言う意味に置き換えてお答えします。

ブドウは落葉果樹と言いまして(常緑果樹:みかん)12月初旬に落葉し、4月に芽吹きます。落葉してから芽吹くまでの期間を休眠期と言います。では、休眠期にはブドウは眠っているかというとそうでは有りません。花芽分化は進んでいるのです。

@ 収穫が終わると、11月 肥料掛けをします。土を掘り堆肥(たいひ)等元肥(もと ごえ:基本となる肥料)の施肥をします。(対して、期間中は追肥をします)
A 12月 落葉したら剪定(せんてい:余計な枝を切り、樹形の調整)をします。
B 2月 葡萄の古皮を100気圧の水を使ってはぎ取り、病害虫の住む環境を吹き飛ば し清潔にします。
C 3月 芽吹かない前、石灰硫黄合剤で、防除をします。これは病虫害対策です。
D 4月芽吹いたら、防除(殺菌・殺虫剤散布)、誘引(つるしばり)、葡萄の房の管理(はさみで整形)、 種なしにするためのホルモン処理、傘掛(ぶどうの房にビニール等 の傘をかける)等々、巨峰は8月の初旬収穫まで、甲斐路は9月の初旬から10月下旬の収穫終了まで、作業があります。ですから私は1月中に25日くらい農作業を休むくらいで、あとは年中無休体勢です。雨が降っても農作業をすることもあります。

質問2,台風の被害をさけるために、どういう工夫をしているのですか。

 台風被害は工夫で避けれるものではありません。来るものは来ます。避けようはありません。でも、ありがたいことに、山梨には富士山があり、周りを山に囲まれた盆地です。盆地の真ん中の石和には、あまり台風は来ません。大風が吹くと桃や梨は落果してしまいますが、ブドウは棚につるさっていますから、擦れ等はおこりますが、落果することはありません。また、大雨が降ったら、排水に気をつければ、砂壌土の土壌は水はけも良く、半日も経てばさらさらになり、粘土のように泥田になることはありません。昔は棚に縄を縛り、風であおられるのを防いだりしましたが、あまり効果もなく、今は何の対策もしません。せいぜい、畑の雨水が早く川に流れるように、溝を切っておくくらいです。

質問3,休みの日などはあるのですか。

若い農業後継者等がある場合には、休日をきちんと定め、労働報酬を安定的に与えることが必要です。そこで、農家の主人と家族の間で、労働協約を締結し、休日、労働時間、報酬等を 定める指導を県で行っております。
 私の場合は経営者ですから、1月に25日ばかりの休日しか有りませんが、妻は、観光園が11月初旬終わると4月の農作業が始まるまでは農閑期(のうかんき;農作業がない期間)となります。でも、その間も、帳簿の整理や青色申告の準備等はしています。あとは農作業の合間に適宜に体を休めたり、健康維持のため任意に休日を取ります。

質問4,種はいつごろ植え、何年でブドウは育つのですか。

 ブドウは種では増やしません。台木に穂木を接ぎ木する方法で育てます。苗は苗木店で購入します。登録品種の販売は県に登録した業者でないと出来ません。また、台木や穂技が異なると品種がぼけて悪く変化しますので、県やJAグループ等で開発や苗木の育成をしています。苗木は1〜2年生のものを購入し、休眠期(落葉してから芽吹くまでの期間)に植え付けます。ブドウは3年目くらいから実りますが、5〜6年くらい経たないと収量や果実が安定しません。県やJAではブランド(良い品種を有る程度まとまった収量を得て、県の特産品としたい。)作成のため、育種や市場に対する宣伝活動をしています。農家で生産された生産物は農協に出荷され、共選所の共選を経て市場出荷されますから、高品質でかつまとまった収量が必要になります。観光農園では、珍しい種類が少量多種で商売可能です。

質問5,ブドウをおいしくするための工夫は何ですか。

病害虫に犯されない健康な樹を育てることです。 植物の生長には<栄養成長>と<生殖成長>とがあります。
<栄養成長>とはブドウの樹そのものを成長させることであり、
<生殖成長>とは、栄養成長した樹体が、その果実を実らせることです。
この2つの成長をCN率で表します。C/N Cは炭素 Nは窒素 を表します。
若木はNが多く、樹の成長が著しく、成木はCとNのバランスがとれて、落ち着いて良い実を実らせます。樹勢(じゅせい)と言いますが、樹の勢いを見ながら、剪定や施肥によりバランスの取れた樹体を作り、防除により病害虫を防ぎ、果実を実らせ、果実の収量や形を調整して収穫することになります。それが、農業技術です。

質問6,なぜ、この仕事を始めたのですか。

 家業だからです。祖先から受け継ぎ、私で4代目です。 つい3年前までは、兼業農家でした。私は東京農大卒ですが、JAの指導機関に勤めながら農業に従事していましたが、定年退職して専業農家となりました。(土日の休日や早朝農作業をしてから勤務する。)専門的に実務を勉強始めたのは、HPをアップロードした8年前くらいからです。今では父母は引退しまして、妻と2人で農業をしています。勿論2人だけでは農作業が間に合いませんから、年間150万円くらい雇用をしています。

平成19年10月17日(水)

館山市立那古小学校 修学旅行現地研修会
             9・10・12班 様

研修カリキュラム

1.あいさつ、簡単な豊玉園の説明(ブドウの試食)
2.屋上から笛吹市や豊玉園の展望
3.園内での質疑応答と葡萄狩り
4.地下160mから湧出る湧水の試飲
5.解散


参考資料

一般の生産農家と観光農園(豊玉園)経営方法の違い

*一般生産農家

JAの指導によりJAへの共選所出荷品目の生産をする。
共選所出荷品目はその地域の特産品(ブランド)であり、商品価値が高く、収量が有る程度まとまっていることが条件
利点、高品質の規格にあった果物を生産し、JAに出荷すれば、共選して市場に出荷して、精算して、相当の金額を貯金振り込みしてくれる。省力化が図れるとともに、市場に対する代金決済、振り込みまで一貫してJAがしてくれる。

* 観光農園(豊玉園

果物を育てるのに必要な技術指導を受けたり、農薬・肥料の購入はJAからしていますが、集客や果物の販売先、宅急便等で販売した代金の請求や決済等を自己責任でする。つまり、生産から販売まですべて自己責任で行っているのが観光農園です。一般生産農家がブランド品を生産しJAに出荷するのとは異なり、観光農園はブランド品の他に少量多品目の生産を行い特色を出して、販売することも出来ます。それが、観光農園の集客力にもつながっています。
 集客力を増すには、土地条件(交通の便利さ・観光地・旅館が多いこと)は基より、話題を作ること。(TVや雑誌などのマスコミ対策)HPの作成と恒常的更新等があげられます。

* 観光農園経営のための知識としては
1,生産農家と同様の果樹栽培技術(剪定・施肥・防除・その他の農業技術)
2,マーケッティング (商品知識(流行)・商品の陳列方法・フローチャート(人の流れ:葡萄狩り入園から葡萄狩りの実施・容器を洗って返し、帰るまで) 商品宣伝(HP・パ ンフレット等の作成)・接客・説明・雇い人の管理等
3,簿記・税務(所得税の青色申告等・債権管理(宅急便等代金の請求・領収)

  等が特別に必要な知識です。

 良く、「観光農園と生産農家ではどちらがもうかりますか?。」という質問があります。 私は、「どちらとも言えません。やり方次第ですから。」と答えることにしています。

なぜなら、葡萄園があって、観光農園をするのか、JAに共選出荷するのではなく、スタートから考え方を変えないと両立は不可能だからです。規格にあったブランド品を高品質・多収穫してJA出荷するのに対して、ブランド品を高品質・多収穫が基本の他に、観光農園としての特色を出し、生産から販売まで一貫して自己責任において経営する観光農園は、軌道に乗れば収益は多いが、リスク(危険)も併せて持たなければならないので、色々の条件がクリアーできた園でないと目的を達することが出来ません。

 大型の会社組織の観光農園もありますが、家族労働中心の当園では、かなり、苦しいほどの努力をして、やっと、”まぁまぁ”の成果を出すことが出来るといった実情です。

 でも、大勢の都会の方が来園され、皆様と触れ合うのは何よりも代え難い喜びです。
学校での勉強や、職場に入ってからの研修は、直接実務(社会人に成って直接役立つ)には結びつきませんが、目的意識を常に持っていることにより応用が付くばかりでなく、自分の理論を作るうえの基礎の力となります。

私の園は清潔でゴミが余り落ちていません。お客様のマナーも良い園です。
これは、ディズニーランドに行ったとき、散らかったゴミはすぐ拾い清潔にしてお客様のマナーを良くさせること。(ゴミを散らかせない。)お客様の歩く流れ(フローチャート)を良く研究していること。お客様の好みを捉えていること。等を観察し、当園にも応用した成果でもあります。
学校での勉強はいつかきっと役に立ちます。役立たせるためには応用力を身につけることが大事です。学校での日常の勉強は基より、今日のような現地での勉強を通じて、楽しみながら、目的を持った勉強を続けて下さい。元気で、またお会いしましょう。 
   今日は大変ありがとうございました。

平成18年度質問事項返答

3班の質問事項

@ 皮ごと食べるぶどうはどこのお店で売っていますか。

豊玉園の栽培品種としては、アキクイーン、ゴールドフィンガー、チェリー、バラディー、ピッテロビアンコ、ゴルビィー、レッドグローブ等有りますが、比較的皮の薄い品種です。(アメリカ、カナダ、ヨーロッパ等の人はすべてのぶどうを皮ごと食べます。) 特殊の品種なので有名デパート等で販売されています。

A ワインの作り方を教えてください。

 ワインは酒税がかかります。税務署や保健所から許可を得たメーカーや組合で製造します。農家で作ることは出来ません。
白ワイン 山梨では甲州葡萄や甲斐路等、葡萄の果皮がピンク系の葡萄で作ります。葡萄を搾った果汁(果汁のみ)に糖分と酵母菌を加え発酵させて作ります。(メーカー)白ワインは殺菌作用が強く大腸菌などを殺しますので、お刺身や生もの等を食べるとき多く食します。酵母菌を加えなくても葡萄に着いている菌で自然発酵もします。 猿が山の果実をかみ砕き木の洞等に吐き出しておくとワインが自然に出来ます。アフリカ等ではバナナをかみ砕き器に入れてワインを作ります。唾液が酵母の役目をします。

赤ワイン マスカットベリーA 巨峰等黒系の葡萄の果汁で作りますが、白ワインと違うところは粉砕された葡萄丸ごと(果汁と皮)を発酵させることです。赤ワインにはポリフェノールという物質を多く含み(お茶の中にある渋み、タンニンもその仲間)ガンの抑制作用があると言われています。HP「ミニミニ情報」参照

B ぶどう作りには何が大切ですか。

 農業には適地適作と言う言葉があります。雨が少なく昼夜の温度差が大きいことが糖度の高い葡萄を作る環境と言えます。土壌は弱アルカリ性 (PH7が中性)がベストです。葡萄は概ねPH6.5〜7.5の範囲を目標としていますが、酸性に極端に偏ると、土壌中の燐酸が不溶性になり吸収できなくなります。逆にアルカリ性に偏っても拮抗作用によりマンガンンやホウ素などの欠乏症が出ます。従って有機質(土壌改善)や石灰の施肥、深耕等により、土壌の化学性と共に空気や保水力を高めるため土壌の団粒構造改善をして土作りをします。
 ヨーロッパに比べ日本は雨が多いですが、湿度対策のため棚栽培が考案されました。ヨーロッパは垣根作りですね。
それから、農業全般に言われることですが、自然を相手にする職業ですから、気候天候に十分注意し、それに対応することです。雨が少なければ少ないなりに、多ければ多いなりの栽培管理をします。雨が少ないときには冠水と言ってポンプで水を補います。雨が多いと日光も少なく、植物の炭酸同化作用が弱く気温が上がらず病害虫の発生が増します。農薬で適切な防除をします。殺菌剤と殺虫剤を使用します。その他、様々な農業技術を併用して対応します。

C ぶどう作りにはどんな気候が適していますか。

@ で述べたとおりです。葡萄の種類によっても異なります。原種が寒い地方の物暖かい地方の物とがあります。山梨は盆地で標高差があります。盆地の底の部分(平地)と盆地の上方(山地)でそれぞれにあった葡萄を栽培しています。平地は早場地帯です。同じ品種でも1ヶ月くらい収穫期が早いです。山地は山風、谷風により昼夜の温度差が多く、巨峰等黒系の色着きが良いという特色があります。

D 豊玉園で作っているぶどうでワインにしているぶどうは何ですか。

 豊玉園は観光葡萄園です。ワイン用の葡萄栽培はしておりません。すべてお客様の胃袋に入ったり(食べ放題)やお土産、宅急便等で販売されます。ただ、巨峰やピオーネは赤ワイン、甲斐路やアキクイーン等のピンク系のは葡萄は白ワインの原料にはなります。しかしこれらの葡萄は生食用の葡萄ですから原価が高くなりワインとして販売するのにはコスト高となります。 巨峰ワインはメーカーで製造しています。しかし、モルト(エキス部分)は10%内外です。

E どういうふうにして新しい品種を作るのですか。

 昔は農家でも研究家がいて新しい品種を作りました。枝変わりと言って同じ巨峰の樹でも特定の枝だけ早く収穫できたり、糖度が高かったり、粒が大きかったりすることがあります。そういう枝から何本も接ぎ木を作り、実をならし次第に選抜し固定します。 品種は途中で変化して良かったり悪かったりしてはだめですから、安定するまでそれを続けます。一つの品種を固定するのには7〜8年もかかります。成功するとは限りません。
 もう一つに交配法(品種と品種を掛け合わせる)もちろん、父と母になる品種が必要です。花の雌しべに雄しべの花粉を着け、その種をまいて育てます。実生と言いますが 今では実生ばかりでなく、ハイテク、バイテクで、植物の核を使った育成や遺伝子操作による育種も一部行われています。
いずれにしても、長い年月と技術、経費がかかりますので、枝変わり等の発見は農家でも行われていますが、新品種の育成は公な研究期間(農業試験場・果樹試験場)で行われています。山梨ではフルーツ公園の下に県果樹試験場があり、桃の新品種の夢しずく、すももではサマーエンジェル、サマービュート等が近年発表されました。

2班の質問

質問1 何年前からぶどう園を始めたのですか。

豊玉園は三浦家 初代 豊次郎の名にちなんだ命名です。開園は戦後、昭和25年養蚕から果樹へ転換されました。始めはデラウエアー種の栽培からです。父が戦争から帰ってきて、試行錯誤しながら梨、リンゴ等の栽培から葡萄専業農家になりました。私は昭和20年生まれですから、養蚕から果樹農家への転換や今に至るまでの過程を子供の頃から見て育ちました。従って当園として始めたのは今から56年前となります。私は東京農大農学科の園芸研究室でぶどうの土壌分析が卒論のテーマでした。卒業は昭和43年ですが、JA山梨中央会(農協の指導機関)に就職しました。在学中に農業改良普及員の資格も取得し、就職後は家業を手伝いながら、兼業農家として農業に従事していましたが、2年前定年退職して農業に専従となりした。父母は4年前から隠居し、今は妻と2人で経営しています。勿論農繁期には農作業のため知人(毎年農業技術の優れた人(雇人)に房づくりから剪定まで)に手伝っていただきます。

A ぶどうにはどんな栄養がありますか。

わたしのHP「ミニミニ情報」に詳しく載ってます。 主には糖分、ビタミン類、繊維質です。

果物に含まれる栄養素と効能=野菜にも含まれますが、果物は調理をせず生食のため栄養素を丸ごと摂取できます。ドリンク剤やビタミン剤は吸収も早いですが、ビタミンは貯蔵が利かないため、その大部分はおしっこですぐに体外に排出されてしまいます。おしっこが黄色くなって特有の臭いがしますからお気付きの方も多いでしょうね。

「糖 分」
 果物の中でも特に甘味が強いのがぶどうの特徴です。この甘味成分は果糖、ブドウ糖で、ショ糖(これは砂糖の成分ですが)はほとんど含まれていません。 これらの糖類は栄養素としては炭水化物の仲間です。炭水化物の中にはご飯や芋類に含まれるデンプンがありますが、果糖、ブドウ糖などの糖類は私たちの体内でもっとも吸収されやすい炭水化物です。吸収が早いということはエネルギーの生成も早いので、活力源となるのが早いということになります。ですから、疲れているときには果糖やブドウ糖の多い果物を食べると早く回復することができます。
 
「ビタミン類
ビタミンC ガンを予防しストレスを和らげます。 
ビタミンA 免疫力を高めます。 ビタミンAに変化するβーカロテンは免疫力を高めます。
ビタミンE 老化予防効果があります。抗酸化作用があり老化やガン、高血圧、動脈硬化などの予防に効果があります。
ビタミンB群 不足すると疲れやすくなります。 エネルギーの供給や、老廃物の代謝に関与し、不足すると疲れやすくなります。

「ミネラル類」
カリウム 血圧を正常に保ちます。 ナトリウムの排泄を促して、血圧を正常に保ちます。調理すると失われやすい性質を有します。

「植物繊維」 第6番目の栄養素 
ペクチン、セルロース等 
 コレストロールの上昇を抑え腸内の有害物質の排泄、善玉菌と呼ばれるビフィズス菌の増加促進などにより生活習慣病の予防効果があります。

「ポリフェノール」 
フラボノイド化合物 血管を強くします。多くの種類がありますが、ビタミンCの働きを高め血管を強くしたり抗酸化作用によって発ガンを抑制します。

カテキン類 生活習慣病の予防の効果があります。果物の味に深みを与える成分で抗酸化作用により生活習慣病の予防効果があります。

「有機酸」 
リンゴ産、クエン酸、酒石酸等の有機酸 爽快感と清涼感を与えてくれます。鉄の吸収を高めるため貧血防止効果があります。クエン酸は疲労物質である乳酸の減少を促進します。

質問3 今新しい種類はありますか

新しい種類、品種というと一つの品種を固定するのには何年もかかりますから、どんな種類が新しいかというと大変むずかしいんですが、最近の流行として
 1,皮をむかず皮のまま食べられること
 2,種がないこと
 3,大粒であること
 4,珍しい形をしていること
 5,食感がよいこと
 6,美しいこと
 7,最後に美味しいこと
等多くのことが求められるようになりました。

1,については皮が薄い品種です。コリッとして食べやすい品種です。豊玉園の栽培品種としては、アキクイーン、ゴールドフィンガー、チェリー、バラディー、ピッテロビアンコ、ゴルビィー、レッドグローブ等有りますが、比較的皮の薄い品種です。(アメリカ、カナダ、ヨーロッパ等の人はすべてのぶどうを皮ごと食べます。) 特殊の品種なので有名デパート等で販売されています。

2,については、もともと種がない品種も遺伝育種的に作られます。葡萄では長野県農業試験場が平成2年に「巨峰」に「ロザリオビアンコ」を交配して育成した3倍性無核品種(ナガノパープル)を作り平成16年に品種登録されました。遺伝学的に4倍体と2倍体のぶどうを交配させると遺伝子が減数分裂して、(2÷2=1)+(4÷2=2)=3、3倍体の葡萄ができます。奇数の場合は種なしです。種なしスイカもこうして作られます。種なしスイカの実にも少しだけ種がある場合もありますがそれを蒔いても種なしスイカにはなりません、交配された雑種第1代(F1)のみの種を作るのです。
 しかし、種無し葡萄のそのほとんどはジベレリンという植物栄養成長ホルモンを使い種無しにします。葡萄の房の花の満開時と開花後10日〜2週間の2回、薬を入れたコップに房をつけます。すると種無しと収穫期が2週間ぐらい早くなります。これは山梨県農業試験場の開発した技術です。更に研究がされています。(労力軽減のため1回ですます研究。)

3〜5については交配とか品種選抜で栽培します。

質問4 ぶどうには何粒ぐらい着いていますか。

大房系 種なし巨峰は35〜40粒に人工的に作ります。(品種栽培方法により異なるが房の重さは消費者の買いやすい重さとして400〜450g位がベスト(農協共同選果場)。)により種無しと種有りでは栽培方法が異なりますが、種無しでジベレリン処理する方が葡萄の粒が大きくなりますので少ない粒数にします。葡萄のなっているのを見ると、長い茎にがぶらぶらつるさっていますが、その長い茎はそこになっている葡萄を小さいうちに人工的にはさみで取り除いたもので実はそこにも葡萄の粒がありました。葡萄の房の下方もカットしてあります。また、粒も大きくなるとお互いに押し合いつぶれますので摘粒と言って粒おろぬきして粒数を加減してあります。つまり、葡萄は人工的に調整されて房作りされています。房作りしないと美味しく整った葡萄にはなりません。人間は個性が大事です。その人その人の美しさがあります。個性的な自然の美しさを天然美人というなら、私は葡萄は人間の力による整形美人であると考えております。

質問5 木を植えて実るまでどの位かかりますか。

「桃栗3年、柿8年、梅はすいすい18年」と言われていますが、ほとんどが実生でなく台木に接ぎ木した物を苗としています。葡萄は3年目ぐらいから実りますが、葡萄の樹らしくなるのは5年ぐらいです。ちなみに葡萄の寿命はというと、人間が管理している物では、甲州葡萄では70〜80年の物も山梨にはありますし、豊玉園の巨峰や甲斐路は42〜3歳です。管理さえよければ永遠とも言えますが、経済年齢とか流行とかをを考えると50〜60年位が限度ですかね

質問6 10月の中頃にはどんなぶどうが食べ頃ですか。

 豊玉園では8月初旬にハニーブラック、種なし巨峰から始まり11月5日の連休で閉園となる予定です。葡萄は8月〜10月までが旬です。食べ頃についてはHP「果実の食べ頃」を参照してください。 10月中頃は、甲斐路、甲州葡萄、レッドグローブが主品種となります。

修学旅行訪問者に対する10のインタビュー「総合的な学習の時間『将来の夢みつけ隊』の学習の一環としての質問」

@子供の頃の夢は何でしたか?

  「父の職業を次いで立派なお百姓さんになること。」と小5の時言いました。とりわけ理科に興味があり得意でした。

A今はどんな仕事をしているのですか?

 観光葡萄園の経営をしています。60歳の時定年でJA山梨中央会を退職して農業専業になりました。専業2年目です。

Bなぜ今の職業をえらんだのですか?

 家業だからです。1,2haの農地を守らなければなりません。

C今の仕事をやって、苦しかったことはなんですか?

 苦しいと思ったことはありません。ただ、果物が台風や雪害で被害を受けたとき。天候不順や技術不足で病害虫に犯されたりしたときは「何くそ!!」と頑張りました。

D 今の仕事をやって、うれしかったことはなんですか?

 今年は努力が実り、昨年の課題を克服して病害虫に犯されない葡萄(甲斐路)が出来ました。(HP文芸コーナー 退職1年目の挑戦に課題を掲載してあります。)

E仕事をすることによってえられるものってなんですか?

 自分が努力した成果である美味しい果実に、喜んでいただいたお客様の笑顔、それに努力の対価(報酬)であるお金を得たときです。

F仕事をつづけていくためには、どんな力が必要だと思いますか?

 研究心と目標を持つことです。目標を持つことにより努力する課題が出来ます。これには毎日の目標と長期目標があります。毎日の目標は長期目標達成のための手段(方法:作業)となります。

G生まれ変わっても今の仕事をやりたいと思いますか?

 それは解りません。今の仕事は好きですが、放送関係とか、外国での生活も夢として持っています。違う職業にもチャレンジしたいですね。自分の可能性はとことんまで追求したいんです。だから今の職業にはこだわりません。でも、結果として生まれた環境が農家ならもっと進んだ観光農業を目指すかもしれません。それは宿泊施設も持つ観光園です。グリーンツーリズム(都会と農村との交流の出来る宿泊施設(ログハウス等)を持った観光園、これも夢なんです。

H子どもたちの将来に願うことは何ですか?

 人の情けとか、他人の心の痛みがわかる人間になることです。そして、すばらしい日本を育ててください。

I今の仕事のコマーシャルを書いてください。

 農業とは自然と共に歩む職業。果樹農家とは美味しい果実を作る職業。観光葡萄園はその果実を味わっていただき、グリーンツーリズム(農家と都会の人との交流)の実践出来る場所です。農村の良さを都会の人々に味わっていただき、国土と環境保全、それに食の安全・安心(トレーサビリティー(消費者から食物の生産工程までが遡及して理解出来るシステム))の大切さを相互理解したいですね。(HP 果樹栽培履歴参照)

編集後記

 修学旅行であるのにもかかわらず、事前から熱心に研究している様子。大変すばらしいことだと思います。また、担任の先生が熱い気持ちを持って適切な指導をしているのを感じます。次世を担う児童のために私も精一杯前向きに取り組みました。少しでもお役に立てばとの気持ちからです。その一環をご紹介させていただきました。(小学生には少し専門的で理解が難しい部分があるかも知れませんが、このコーナーでは大人用に一部加筆訂正した部分があります。)平成18年9月28日 豊玉園 園主敬白