1998年東京電力株主総会に関する質問に対する会社側からの回答に
    基づく感想。東京電力株主総会年間より抜粋      大友 哲

 今年も、例年と同じように事前質問を行いました。その内容は議事録の通りです。毎年
事前質問を行っていると、回答を聞く前から8割り方内容が予想出来るのですが、あえて
認識の違いを再確認するために質問しています。10年・20年後に振り返って見ると面
白いと考えています。
 私の今までの経験から東京電力と言う会社の特徴について説明したいと思います。株式
会社でありながらどんなお役所よりも保守的な官僚組織であり、縦割りの組織です。外か
らの刺激や状況の変化に対する対応能力は、一般常識では考えられないほどスロ−ですか
ら、株主総会で1〜2回質問しても、全く無視されているように感じられますが、何年も
経過すると無駄では無いと感ずることもあります。私は、毎年株主総会で「設備投資が多
すぎるのでは無いか」という趣旨の質問を繰り返して来ました。しかし会社側の回答は、
「今後も着実に消費電力は伸びるから設備投資を増やす」という趣旨の回答でした。とこ
ろが、10月13日の新聞報道によれば、99年度以降の設備投資を1000億円減らし
て、年間1兆3000億円以下に押さえるという画期的なものです。経営陣にとっては大
変思い切った決断を行ったことでしょう。しかし一般常識からみれば非常に遅すぎる決断
でした。現在の景気の後退は、予想を大きく上回る状態ですから、将来の電力需要の伸び
を予想してすでに完成したり建設中の発電設備が過剰投資となっていますから、今後の需
要の動向(電力需要が増加するか減少するか)を見極めるまでは当分の間、新規の設備投
資を凍結するのが妥当です。状況によっては1兆円近くも減らさなければならないでしょ
う。
 私の意見に対して経営者の方は、「将来景気が回復してからあわてて設備投資をしても
需要の増加に間に合わない。」と反論される事でしょう。しかし私の予想では、需要の堅
調な増加はもう起こりません。産業構造の変化により産業用電力の需要が減少することは
勿論のこと、個人の生活においてはライフスタイルと価値観の変化が確実に起こりつつあ
ります。そしてそれを支える技術的な進歩が進んでいるからです。現在の不況は、消費低
迷型不況はと呼ばれています。それは人々の豊かになりたいという物質的欲求が満たされ
次の段階のニ−ズに産業界がこたえられないために起こった現象と言えます。次の段階の
ニ−ズの一つに環境保護に対する欲求があります。より便利で豊かな生活を楽しみたいと
思うのが人間の自然な欲求です。それと同時に地球環境も損ないたくないと考えています。
最近、省エネを売り物にした家電製品の広告が目につくようになりました。例えば、家庭
の電力消費の約3割りを占める冷蔵庫の場合、7年前に比べて65%も省エネになる製品
もあります。今後景気が回復して、これらの家電製品に買い替え需要が起これば消費電力
は着実に減少します。
 今までは、電力消費は経済成長と相関関係にありましたから予測は容易でした。例えば
経済が毎年3%づつ成長するからそれに合わせて毎年3%づつ発電設備を増やして行くと
言う手法で経営が成り立ちました。しかしこれからは、ライフスタイルや省エネ技術の動
向等を多方面から分析して、予測を立てる必要が出て来ました。そして世界一の規模を誇
る当社は、優秀な人材を投入して、最新の省エネ技術の把握や将来予測を行っていると考
えていました。ところが期待は大きく裏切られてしまいました。担当者は「光害対策ガイ
ドライン等」の省エネ技術に関して全く研究を行っていないことが分かったからです。
 光害に関する質問を行うに当たって、事前に文書を送っていました。その内容は、「人
工衛星から撮影した夜の日本の映像を解析した結果、屋外照明から無駄に宇宙に放出され
る光エネルギ−は、年間200億円にも達します。その無駄と光害を削減するために、今
年の3月に環境庁の光害対策ガイドラインが策定されました。その内容をCM等で宣伝し
てほしい」というものです。それに対する省エネグル−プY課長の回答は、「光害対策ガ
イドラインを宣伝することは、環境庁に対して失礼になる。既に使っていない部屋の照明
などを小まめに消すように宣伝している。」といった的外れな回答が返って来ました。一
方で、米国のインディアナ州にある世界第16位の電力会社PSI Energy社は、質の悪い屋
外照明の問題を提起するカタログを作り60万世帯に送付しました。世界1位の電力会社
でありながら、世界で最も遅れた省エネルギ−グル−プのレベルに呆れてしまいます。な
お補足になりますが、9月23日に光害対策シンポジウムが開催されることになり、Y課
長にも案内をお送りしたところ、全く回答が無かったため、「グル−プのどなたか参加で
きませんか」と問い合わせたところ、「全員都合が悪くて参加できない」との事でした。
シンポジウムでは、照明器具各社の新製品(光害防止省エネ型)の発表がありました。
 株主総会における質問の回答では省エネのPRを行っていると回答しているが実際は口
先だけで、本気で省エネに取り組んでいないことが分かりました。太陽光発電などの新エ
ネルギ−を推進することも、本気で取り組んでいるか疑問です。何故なら新エネルギ−に
対する設備投資の金額が原子力等に比べて桁違いに少ないからです。新エネルギ−のコス
ト削減は、生産量を増やすことによって達成されるからです。新エネルギ−のコストを下
げると困る理由があるのでしょうか。
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